毎日新聞 2010919

紙ふうせん:「グワンジャン」炭鉱の人情 元米兵捕虜との思い出話に花 福岡・飯塚市

 戦時中に福岡県飯塚市の旧二瀬炭鉱で使役させられた元米兵捕虜、ドナルド・バーソーさん(89)=米カリフォルニア州在住=が戦後初めて炭鉱跡を訪れた14日、一人の男性が出迎えた。同市の農業、池主哲雄さん(80)。バーソーさんの支援者が当時を知る人を探していると聞き、名乗り出た。

 戦後すぐ、B29の編隊が炭鉱の収容所にいた捕虜約600人のための物資を落下傘で投下した。「超低空で手が届きそうでした」と当時15歳だった池主さん。一つが近所に落ちた。中には、せっけんらしきものが。恐る恐る口にしたそれは、初めて味わうチーズだった。

 一方、収容所の米兵にとって落下傘は解放の印。バーソーさんは物資回収のため塀を倒して外へ飛び出たことを鮮明に覚えていた。帰国までの約1カ月、物資と生鮮品の交換などで住民と交流することもあったという。

 思い出話に花を咲かせた2人は市歴史資料館へ。「炭鉱ではいつも『グワンジャン』と言われていた。いまだに意味が分からない」。採炭作業の復元模型を見たバーソーさんがつぶやくと「それは『ご安全に』。相手が誰であれ気遣う炭鉱のあいさつです」と池主さんが応じた。

 別れ際、バーソーさんは池主さんの肩を抱き「会えて本当に良かった。これは贈り物だ」と小さな布袋を手渡した。中身は今回の訪日を記念し「日米友情」と刻まれたメダル。「筑豊の人情を感じたんじゃないですか」と池主さんは照れ笑いした。【門田陽介】